クライアントは「人類」

研究の出発点は「地球の誰かのお困りごと」です。社会課題に対して、誰よりも先に、独創的な解決方法を創り、モノづくりやシステムの形で普及させるところまでを貫徹します。研究の柱は3つあります。

  1. 災害即応型研究:Semper Paratus(常在戦場)をモットーに研究者として緊急事態対応を行っています。2011年の福島第一原子力発電所事故の直後に、市民誰もが放射線を測定できるよう、世界初のスマホ接続型放射線センサ「ポケットガイガー」をオープンソースで開発し、10万台以上を普及させました。当時、日本人として最初にクラウドファンディングKickstarterを活用し、オランダ国防省や高エネルギー加速器研究機構をはじめ、世界中の研究者とのオープンイノベーションにより実現しました。グッドデザイン賞やRedDotデザイン賞を受賞し、今では10年を超えるロングセラー商品として多くの人々に愛されています。また、大手ゼネコンやUCBerkeley原子力工学科が設置するモニタリングシステムにも採用されています。
     2020年からCOVID-19のパンデミックの中では、マスク不足を解消するためオープンソースのマスクプロジェクト「オリマスク」(頒布数10万枚以上)を逸早く立ち上げました。オリマスクは入手性の良いスパンボンド不織布に高電圧コロナ放電によりエレクトレット加工することで捕集効率を高めており、その製造方法は全て公開されています。その後、マイクロ飛沫による空気感染が懸念される中、三密を可視化するスマホ接続型・IoT方式の「ポケットCO2センサー」(頒布数2,000台以上)を誰よりも早く社会実装し、メディアを通じて三密回避のためのCO2測定の重要性を啓蒙し、広く知られるようになりました。またルワンダやパプアニューギニアの子供たちの遠隔学習を支援するため、総務省の支援の元、国内埋蔵タブレットを学習用にセットアップして寄附を行う「スマイルタブレット・プロジェクト」を始動し、これまで国内外で1.6万台を教育・医療・災害対応に活用いただいています。異分野の専門家や一般公衆との対話能力や、超スピードの開発が求められる研究です。

  2. たのしい医療機器:エンタテイメント(アート・デザイン)の力で、医療・衛生・福祉をより良いものにしようという異色の研究です。弱視(amblyopia)という眼疾患を持つ小児のために、北里大学と共同でビデオゲームをしながら弱視訓練を実現できる医療機器「オクルパッド」を開発しました。ゲームに集中することで治療効果が高まり、コンプライアンス(治療への参加率)も向上することが報告されています。既にクラス1医療機器として登録され、保険適用されていることもあり、国内では1,000台以上が活用されています。さらに今、弱視が世界で最も多発しているインドで15カ所の眼科病院と共同での臨床実験も始まっています。また子供たちに人気の「ポケモン」とコラボし、数々の医療機器を製品化しています。
     遊びの要素を様々なタスクに活用する手法は、ゲーミフィケーションやシリアスゲームスと呼ばれ、医療だけでなく、衛生・福祉分野にも生かすことができないかと考えています。そのために日々、エンターテイメントのセンスを磨いています。ルイ・ヴィトンや資生堂といった有名ハイブランド企業の展示企画を世界的なデザインファームと共に考え、技術面の支援もしています。このように人々を驚かせたり楽しませるスキルを切磋琢磨することで、楽しみながら医療・衛生・福祉を享受できる社会の実現に貢献します。

  3. リスク弱者の救済:地球上には顕在化していないリスクがあり、それを知らずに多くの市民が暮らしています。これらを可視化し、行動変容に繋げることで一人一人の健康を改善しています。例えば室内で薪ストーブを使って調理をすることで多量のPM2.5を吸い込み年間400万人が亡くなっていますが、この問題に気付いている地域住民は僅かです。薪ストーブの課題を解決したいと思い、数年前からルワンダでのフィールドワークを行っています。解決策の一つとして、排煙機能のある「かまど」を現地にある材料だけでうまく作ろうと模索しています。
     もう一つの事例は、インドネシアにあるバンカ島という小さな島です。そこでは皆さんが使っているスマホやパソコンで使われているハンダ(スズ)を採掘しており、その輸出量は世界首位を争っています。しかし鉱山からは、ウランやトリウム等の放射能も同時に産出されます。住宅街の中に、これらの放射性土壌が大量に留め置かれているのですが、その周辺の放射線量は200mSv/y程度と非常に高く、日本では放射線管理区域に該当します。しかし島には放射線測定器が1つもなく、付近住民は放射線に関する知識が殆どないため、土壌の近くに住んだり、子供が遊んだりしているのです。健康被害も懸念されるため、逸早くリスクを可視化し、地域のガイドラインを作りたいと考えています。

現代社会の課題解決には、企業や組織の枠組みや、専門性を超えた連携が不可欠です。社会をより楽しく、良い方向に「再構築」しませんか?

課題を見つける冒険の旅

社会は問題だらけです。しかし、それを解決するための「真の課題」は深く埋もれていて、簡単には言い当てられません。故・中村哲氏は当初、アフガニスタンに医師として赴きましたが、本当の課題は「医療」ではなく「水源」にあることを見抜きました。一見正しそうに見える解決策の裏側には、さらに根源的な課題が潜んでいたのです。

「課題」(issue)を見つけることは、「解決策」(solution)を考えることよりもずっと難しく、また、時間のかかることだと思います。課題を見つけるための近道は、恐らくフィールドワークでしょう。フィールドワークとはつまり、現場や地域に直接赴き、根付き、共に考え、深く観察することを意味します。

世界をコラージュする

課題が見つかったら解決策を考えるのですが、それは常に「低コスト」である必要があります。製造コストが安ければ提供価格が下がり、普及が促進されます。もし提供価格が同じなら、コストが安い製品の方が付加価値が高くなり、地域経済に貢献できます。安いことはすなわち正義なのです。

最も低コストな解決策は「何もつくらないこと」です。既にあるモノ・サービスや、世の中に広く普及したコモディティ技術を上手に組み合わせれば手間がかからず、精度・限界・信頼性も良くわかっており、余計な心配がありません。

ファミコンやたまごっちを発明した天才ゲーム開発者の故・横井軍平氏は、こうした戦略を「枯れた技術の水平思考」と呼びました。ぜひ私たちも取り入れたい考え方です。既成のものを再構築する手法はブリコラージュ、アッサンブラージュやレディメイドとも呼ばれ、芸術分野では良く知られています。